Wanomanabi logo

伊勢型紙の三重県鈴鹿市白子を訪ねて

目次:

  1. 伊勢型紙の魅力と印象
  2. 伊勢型紙の地を訪ねて 
    2-1. 伊勢型紙資料館 
    2-2. 鈴鹿市伝統産業会館
     2-2-1. 錐彫り
     2-2-2. 引彫り
     2-2-3. 突彫り
     2-2-4. 道具彫り
     2-2-5. 作品鑑賞を楽しむ
  3. 伊勢型紙の職人、女性お二人にお会いして
  4. 伊勢型紙の歴史と和紙
    4-1. 伝統的な工芸品
    4-2. 伊勢型紙に使われる和紙
  5. 伊勢型紙と現代の機械化
  6. 伊勢型紙に直に触れてみて

1. 伊勢型紙の魅力と印象

私が伊勢型紙を知ったのは、一年とちょっと前のことになります。

和紙の魅力に取り憑かれてから、海外からオンラインで作品鑑賞を楽しんでいました。そこで出会ったのが、伊勢型紙でした。繊細なその表現技法に、すっかり魅了されました。

それは画面上からでも、その素晴らしさが伝わってきました。

全く乱れのない模様とその形。
これを手で一つ一つ彫り上げていくのですから、それには大変な集中力が必要だと思います。さらに手先の器用さも伺い知れます。美しい精密さは日本人ならでは、と感じています。

2. 伊勢型紙の地を訪ねて

2-1. 伊勢型紙資料館

やっと、私の希望が叶いました。

伊勢型紙をこの目で見てみたいと、その気持ちを温めてきました。東京都の自宅から新幹線で名古屋まで。さらに近鉄線に乗りました。家を出て約3時間半で、三重県鈴鹿市白子駅に到着しました。
白子の駅前にある観光案内所で自転車を500円で借りて、まずは伊勢型紙資料館に向かいました。

伊勢型紙資料館 白子駅近く
伊勢型紙資料館 白子駅近く

重くて厚い立派な門を引いて開けると、そこには昔ながらの土間にかまどがいくつもありました。建物は江戸末期に建てられたもので、旧寺尾家の住宅です。型紙問屋として、東北地方や関東一円まで広い範囲で行商を行っていたそうです。

主屋では、プロと生徒の方々の作品が展示されていました。

私のような素人目には、比較してどのような違いがあるのかよくわかりませんでした。それほどまでに、素晴らしい作品ばかりが展示されていました。

主屋を出て、蔵の方にも昔の古い伊勢型紙が展示されていました。寺尾家に保管されていたものだと思います。印象的だったのは、虫眼鏡で見ても細かいほどの模様の型紙でした。

伊勢型紙資料館の蔵
伊勢型紙資料館の蔵

2-2. 鈴鹿市伝統産業会館

伊勢型紙資料館を出て向かった先は、鈴鹿市伝統産業会館でした。白子駅の次の鼓ヶ浦から徒歩圏内にあります。伊勢型紙資料館から直接徒歩で向かうのには少し無理があることを知り、自転車を借りたのでした。

こちらに展示してあるものは撮影可能でしたので、ここでお伝えすることができます。展示には、伊勢型紙に四つの彫刻技法があると書かれていました。

2-2-1. 錐彫り

きりぼり
江戸小紋を彫る最も古い掘り方で、半円形の細い彫刻刀を左手で回転させて小さい孔を開けていきます。
小紋柄の最高のものでは、3センチ四方に900個もの孔が開けられます。

錐彫り
錐彫り

江戸小紋とは、室町時代から江戸時代にかけて発展した着物の型染めです。一見、一色の無地のように見えますが、伊勢型紙の緻密で繊細な型紙を使って、染色がされています。
次の写真を、よく見てみてください。模様が見えますか?

 錐彫りでできた、繊細な着物の染め模様
繊細な染め模様
一見、無地のように見える繊細な着物の染め模様。
一見、無地のように見えます。
繊細な着物の染め模様。
近くまで行かないと、緻密な模様は見えません。

2-2-2. 引彫り

ひきぼり
左手で定規を押さえ、右手に鋭利な彫刻刀を持って均等の縞を彫っていきます。
最高のものでは3センチ幅に31本もの縞が彫られています。染める時に縞が動かないように、糸入れされます。

引彫り

2-2-3. 突彫り

つきぼり
彫刻刀の柄を右頬にあて、左手で刃先を調整しながら上下に動かし、7〜8枚の型地紙を突板の上で突くようにして掘ります。
掘り終わったものは、型紙を補強するために紗張りされます。

突彫り

右頬に彫刻柄を当てて、とあります。繰り返して刺激をすると指にペンだこができるように、右頬にも何か跡ができてしまう?ものなのでしょうか。。

2-2-4. 道具彫り

どうぐぼり
彫刻刀自体が模様のひとつの単位になっていて、柄尻に親指をあて強く押して、型地紙を抜き打ちます。
彫刻刀は、それぞれ彫る人が自分で作ります。

道具彫り

以上の4つの技法は、ひとりがすべての技法を使って作品を作り上げるわけではないようです。一般的には、それぞれの技法の道を極めていくそうです。

2-2-5. 作品鑑賞を楽しむ

裏側からライトをあてた伊勢型紙
裏側からライトが当たっています
裏側からライトをあてた伊勢型紙の模様
道具彫りですね。大きさが異なる同じ形の模様。
伊勢型紙の様々なあかり
様々な模様のあかり
ふすまに描かれていた和風模様
ふすまに描かれていた模様
伊勢型紙のふすま
伊勢型紙のふすま
伊勢型紙錐彫り(きりぼり)
圧巻!!

伊勢型紙錐彫り(きりぼり) 伝統工芸士 六谷 泰英と書かれています。私のお気に入りの作品です。

展示販売されている作品は、写真撮影ができないのでここではご紹介できませんが、六谷春樹さんの飛翔という作品がとても印象的でした。

また、木村正明さん、内田勲さんの作品の数々も大変印象的でした。おふたりとも、作品の中に凛とした雰囲気を感じられて、熟練の技が感じられました。

3. 伊勢型紙の職人、女性お二人にお会いして

那須恵子さんは、今までに動画で何度か拝見していました。デザイナーを経て、2010年からこの道に入られたそうです。香港やマレーシアなどでの海外での実演もご経験されています。師匠の方が2022年に急逝されて、工房をそのまま引き継がれたそうです。
今回は、幸運にもその工房にうかがうことができました。

那須恵子さんと丸田瑛子さん
写真の向かって左側が那須恵子さん。右側が丸田瑛子さん。

那須さんの後輩、神奈川県の湘南出身の丸田瑛子さんにも一緒にお会いしました。同じ神奈川県の山北町でも伊勢型紙を紹介してほしいと、直接伝えることができました。

私の希望は、関東で伊勢型紙の体験ができる場所づくりです。初心者だけでなく、さらに進んで本格的にやってみたい人が、定期的に教室のような形で参加できる機会を作ることができたらいいな、と考えています。

鈴鹿市伝統産業会館では、年間の生徒を募集しています。

私も参加してみたいのですが、残念ながら遠すぎて定期的に参加できる状況にありません。関東でもその機会を是非、実現させていただきたいです。

丸田瑛子さん。ご自分で作られた彫刻刀を使って、「錐彫り」の様子。
丸田瑛子さん。ご自分で作られた彫刻刀を使って、「錐彫り」の様子。
集中力と緊張感が漂う、仕事場。

夕方遅くまでお付き合いくださって、どうもありがとうございました。
とても楽しいひとときでした。

4. 伊勢型紙の歴史と和紙

4-1. 伝統的な工芸品

伊勢型紙は1000年以上の歴史があり、小紋や浴衣、友禅、などの柄や文様を着物の生地に染めるのに用いられてきました。
また伊勢型紙は、昭和58年に伝統工芸品として、通産大臣により指定を受けています。

伝統を誇る手作りの証

  • 日常生活のためのもの
  • 製造過程の主要部分が手工業的
  • 伝統的な技術や技法によって作られている
  • 伝統的に使用されてきた原材料が、主な原材料として使われてつくられている

伝統証紙が貼られている通産大臣指定伝統的工芸品は、以上のような基準があるそうです。

私は、日本の伝統工芸品の素晴らしさに魅了されているひとりです。
工芸品というよりは、美術品、芸術品です。現代の美術品もいいのですが、伝統的な高い技術性を持ち合わせた芸術品として、伝統工芸品の落ち着きのある魅力が、私はたまらなく好きです。

美しさは、シンプルで日常的。伝統工芸品は、日常生活に心の豊かさをもたらしてくれています。

4-2. 伊勢型紙使われる和紙

染型の紙として、強くて伸縮性のない紙の性質が必要とされます。伊勢型紙の和紙がそのような性質になるために、何ヶ月もの工程を経て使用されます。

  • まずは和紙を何百枚も重ねて、規格の寸法に裁断
  • 美濃和紙3枚を、縦の繊維と横の繊維が交互に重なるように、柿渋で張り合わせ
  • 天日で乾燥
  • 乾燥した紙を燻煙室へ入れ、約1週間いぶし続ける
  • もう一度柿渋に浸し、天日乾燥、さらに室干し

伊勢型紙の茶色は、このような工程を経てできた、柿渋の色です。最近では赤色をはじめ、様々な色の和紙に彫刻されている伊勢型紙を見かけます。

5. 伊勢型紙と現代の機械化

機械で何でも効率よく作り出すことができる現代。伊勢型紙のような模様は、機械に任せればいいのに、と思われる人もいるかもしれません。

伊勢型紙は、元々着物などの生地を染めるための型として作られてきました。その伝統技術は今でも、着物をはじめ、手拭いなどの生地を染めるために使われています。
染め職人にとって、手彫りの伊勢型紙は不可欠なものです。なぜなら、機械で作られた型紙では、正確で細かな美しい表現は、決して出せないと言います。

機械は、正確さや精密さにおいて人間に勝ると、勝手に勘違いしてしまっている私たち人間がいます。
これから様々な分野において、機械が人間に取って代わることが、ますます加速していくでしょう。しかし、どのような時代になっても、人間の手で作り出すものの価値を忘れてはいけません。

6. 伊勢型紙に直に触れてみて

繊細でリズミカルな動きを数々の作品から直接感じることができたのは、とても貴重な体験でした。

私は同じ動きの繰り返しに、魅力を感じます。

音楽は、繰り返すリズムの中で表現としての様々な音が重なり合い、編み出されていきます。民族舞踊や盆踊りなどは、みんなが同じリズムの中で同じ動きを繰り返すことで、エネルギーのようなものが生まれます。気持ちとしては一体感、とでも言うのでしょうか。

地球も、他の惑星と共にリズムの中で、動いています。正確で、精密で、美しいリズムです。

伊勢型紙から宇宙のリズムを感じた、と私が表現したら大袈裟だと思うかもしれません。しかしそれほどまでに、人間の手によって作り出される究極的な美を、そこに感じることができる感動は、心に残ります。

機械では、この表現はできません。

人間の手にしかできない微妙な表現は、人間だからこそできるものなのです。大切なことを、忘れてはいけません。

伊勢型紙
伊勢型紙
伊勢型紙の魅力